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2017年1月13日 (金)

初々しさが大事なの

初々しさが大事なの
島旅で気づかせてくれたこと。

八丈島に行き、久々の人に出会い、懐かしく過ごしてきた。
その人は同じ仕事をしていて、同じくらいの年で、
おそらく同じくらいの年数を働いているのだと思う。

海からあがって来たわたしたちに、
『はーーい、お汁粉ありますよ〜〜!』
と、大きな大きな声で、満面の笑みで自らよそってくれた少しぬるくなったお汁粉。

『お弁当もらいましたかーーー』
と大きな声で、にこやかに尋ね、一番最後にお弁当を食べ始めるその人。

良く動き、大きな声で、たえずにこやかな振る舞い。
八丈島で久々にふれあった人から、
とても大切なことを思い出させてもらった。


【汲む】茨木のり子詩集より

大人になるというのは
すれっからしになるということだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞いの美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話にいいました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと、、、
わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです


【初めの日に】自選 坂村真民詩集より

なにも知らなかった日の
あの素直さにかえりたい

一ぱいのお茶にも
手を合わせていただいた日の
あの初めの日にかえりたい

慣れることは恐ろしいことだ
ああ、
この禅寺の
一木一草に
こころときめいた日の
あの初めの日にかえりたい

追伸
自分がだらしなくなったら、あの、ぬるくなったお汁粉を思い出そう。

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